コラム

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「心を通い合わせる介護」を実践できる人材を育成

「尊厳」を持って接し続けることで、全介助状態から改善も

 

 高齢化が進む日本で、介護業界の人手不足は深刻な問題です。そんな中、将来の介護を支える人材の育成に力を注いでいるのが、兵庫県三木市の介護ケアサービス「ポリーライフケアサービス」代表、川邉久美子さん。

訪問介護や通所介護、居宅介護支援、障害福祉サービスを中心に事業を展開しています。 2010年から介護人材の育成を始め、今も変わらないこだわりは「対人援助のプロを育てる」こと。「介護作業だけではなく、『心を通い合わせる介護』を実践できる人材を多く輩出していきたい」と話します。「ずっと放心していた全介助状態の方がご飯を食べられるようになったり、話し出したりする奇跡のような光景を見てきました。これらに共通していたのは『尊厳』を持って相手に接し続けたこと。『どうせ相手はわかっていないだろう』と軽んじた気持ちで接すると、相手に伝わってしまいます。人は、人として認められることではじめて、人として生きることができるのです」 研修では「たとえ寝たきりになってしまったとしても、最期の一瞬まで人間」と、生徒たちに繰り返し伝えています。今では150名ほどが川邉さんのもとを巣立ち、介護の世界で活躍しています。 自分自身を見つめ直し、コミュニケーション力を磨く

 

 「ポリーライフケアサービス」の研修プログラムでは、コミュニケーションにかかわる内容に多くの時間を割きます。「傾聴」や「承認」といったコーチング分野のテクニックを学べるだけではなく、自分自身を見つめ直すことができるのも特徴です。 「介護する側が素をさらけ出さないことには、相手の心を動かすことはできません。ありのままに感情を表現することで、相手は共鳴して反応を見せてくれるのです。研修では、自己分析を通じて、周りにどのような影響を与えるのかということを知ることから始めていきます」と川邊さん。 そして、自分自身を見つめ直すために取り組むのが、自分への弔辞。「自分が死んだときに読んでもらいたい弔辞を自分で書きます。弔辞は、その人が生きた足跡や功績が反映されるものです。それは、いわば人生における最終目標。そこをしっかりと認識すれば、ぶれずに仕事に打ち込むことができると考えています」 忙しい毎日に忙殺されると、最初に抱いていた志を忘れてしまいがちです。「なぜ、介護の仕事を選んだのか」「介護の仕事に携わることで何を得たいのか」といったことをしっかりと自分の中に落とし込むことで、川邉さんの目指す「心を通い合わせる介護」を実践できるようになるそうです。

 

「心の距離」を大切に、利用者、家族、職員がチームで対応 川邉さんは事業の方針として、小規模型介護を掲げ、小規模多機能ホーム「いぶき」を運営しています。できるだけ「家」に近い小規模な環境の中、訪問・通い・ショートステイの3つが柔軟に組み合わせられ、その人の生活に密接に関われるサービスの形です。 「少人数だからこそ密に援助できるし、利用者が顔見知り同士なので助け合いながら、より良い人間関係を築けます」と川邉さん。利用者と介護者の「距離」の近さは、物理的な距離だけではありません。「命はいつか終わりが訪れます。機械音に囲まれた病院の一室で人生を終えたい人は少ないでしょう。愛着のある自宅で最期を安らかに迎えられるように、利用者のご家族と私たちがチームを組んで看取っていきたい」と、「心の距離」の近さを大切にしています。

 

「介護を仕事にするやりがいは、“人間再生”の場面に出会えること。『あなたのおかげで、もう一度、やさしくなれた』。こんなことを言っていただけると、また頑張ろうと思えます」。川邉さんは介護の仕事を志す人たちに、その尊さを今日も伝えています。


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